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>>Chapter1

案内された場所は実に広く、ボロマンションに住む私とは比較もおこがましい程の豪邸がそびえ立っていた。

まさかとは思っていたけどこんな金持ちだったとは。ビビって一歩下がってしまったが、さすがにこの大きさに驚かないほど私は冷静じゃないし、今まで殺されるというかなりの重圧感から何故か冷静に対応出来ていたものの、少し安堵すればこのザマである。

そんな私にピサロは笑ったけど、こんな豪邸金持ちだってなかなか持っていない。

 

彼が言うにはこの家は別荘の一つだと言っていた。ということは他にも別荘を持ち合わせていて、実家もこれよりも何倍もデカイのだろう。想像しただけで足が竦む。

彼の別荘の特徴的部分は庭園にある薔薇だった。

赤い薔薇のみならず、青薔薇や黄薔薇、白薔薇や黒薔薇まであるではないか。その他にも品種改良をしているのか、様々に彩る薔薇たちが庭園に咲き誇っていた。綺麗ではあるけれど、黒薔薇がどうにも目に入る。黒薔薇は憎しみや恨みといった幻想的で綺麗に咲いているものとは思えない意味合いを持つ花だ。見栄え的にはいいんだろうけど、それを誰かにあげるつもりはないだろうな…ないでほしいものだが。

 

私がずっと黒薔薇に目が行っていたからなのか、ピサロはクスクスと笑いながら気になるゥ?と尋ねてきた。

 

 

 

「いえ…別に…」

「花言葉は恨みや憎しみ…でももう一つ意味があるって知ってたァ?」

 

…なんだったか…、思い出せない。

首を横に振れば、弧を描いていた唇はより弧を描く。

 

 

「”キミはあくまでボクのモノ”。ねえ、ピッタリじゃない?今のキミに」

 

あくまでモノ扱いか、いつか人間として見てもらいたいものだな。

私は合ってませんよ。と不愉快に口をへの字にさせた。おもちゃというだけでも嫌なのに黒薔薇までプレゼントされるのは御免だ。

 

 

 

「でも…薔薇のいい香りがします」

「いいでしょォ?落ち着くよねェ~ここの薔薇たちは”血”を飲んでいるから他のより全然綺麗だろう?あひゃひゃ」

「…血…?」

お察ししてしまった私は案外想像力が豊かなのだろう。

 

つまりは人間の血をこの薔薇たちは栄養分にしているということなのだろうな。想像するだけでも悍ましい。そう思えば、薔薇たちはまるで目があるかのように私達を見て歓迎しているようだ。こんな世界だ、薔薇が喋ったって納得するかもしれない。

 

 

 

 

家の中に案内された私は私の家の二倍以上はあるだろうリビングのソファーで座っているように促された。

 

こんなに広いと空き部屋をくださいと言いたい衝動に駆られる。しかし空き部屋を一つ貰ったとしても家賃は絶対に払えない額になるだろう。彼はどうすればそんな大金を貰えるような仕事につけるのだろうか…これは聞かないほうがいいだろうな。きっと命がけの仕事なのだろう。リスクが伴う分、額も跳ね上がるに決まっている。

 

コーヒーと紅茶どっちがいい?と言われたので紅茶とお願いした。コーヒーは別に嫌いではないが今は紅茶で落ち着きたい気分だ。

ソファーで座っているようにとは言われたが、やはり人間と言うものはわかりやすい生き物で、当然というように周りの物が気になるので私は探索を始めた。別に怪しい物があるだとかピサロさんの事をもっと知りたいだとかそういう事を思っているわけではない。単純に、金持ちの家ってどんなのだ?というバカな思考で探索している。問題ない。

 

 

ほう?これは…?

豪華なラックの上に置かれていたのはピサロと他の人達が写っている写真。

ピサロさんは普通の笑顔を浮かべていて、横には赤髪の目つきが悪い男の人や修道服を来た青髪の女の人、子どもたちが写っていたり、大人しめな水色の髪をした女の子が写っていたりしている。

幸せそうだな。と思った。

 

今のピサロさんが私に向けている笑顔というのは仮面をしている。口はにっこりと弧を描いていても目は驚くほどに冷たいのだ。私はこういう類の人間はあまり好きではない。かと言って安心したらすぐ仮面を取って全てをさらけ出すような間抜けも好きじゃない。まあ、それは私の事なのだが。

 

面白くないのならおもちゃなんてすぐ捨てればいいのに…というのがピサロさんに言いたいこと。別に死にたがりなんかではなく、何故わざわざおもちゃなんて作るのか。何故そんなにつまらなそうな顔をしているのか、私には理解出来なかった。彼には心の奥底にとんでもないものを抱えている…というのは私の直感だがそう思った。

 

私はよく、読めないような表情してるよねなんて言われるけど、ピサロさんだって全然読めない。私は少し人の心情だとか表情が人並みより優れているだけでそれだけだ。

この写真を見て、この人は笑うときは笑うんだって。まあ、それだけでいいかな。本当に笑えないならまだしも、こういった表情が出来るのなら人間って事だ。

今のピサロさんは人間らしいところが全然なかったから、余計怖かった。少し恐怖が収まったような気がする…と私はソファーに座り直した。

漁るような事はしない。常識的にも問われる行為であるし、見つかった時が何より恐ろしい。

 

 

「おまたせェ~」

キッチンの方から飲み物を持ってきたピサロはテーブルに音を立てずそれを置くと向かい側に無駄な動きなく、座った。

 

前々から思っているが、この人は本当に隙がない。

戦闘能力とかない私が言っても説得力はないが、もし突然包丁が不規則な方向から飛んできたとしたらこの人は片手で白刃取りとか、軽くひょいっと効果音がつきそうな感じで避けそうだ。いや、もしかしなくてもそうだろう。何度も言うようで悪いが、TWILIGHTでの一瞬のあの殺しはどうやって殺したのか全く見えなかったのだ。向かい側に座ってニコニコと仮面をつけながら笑っているこの人は戦闘力としてはきっとエラーになるほど桁違いな力を持っているに違いない。

 

 

「どうかしたァ?」

「いえ…紅茶いただきます…」

 

あ、おいしい…。

というかこんな美味しい紅茶飲んだことないぞ…?やはりブランドか…!!

飲むのも申し訳なくなって、カップを静かにテーブルに置く。…いや、残す方が申し訳ないのでは…と再びカップを持つとピサロは少し吹き出して、わかりやすい事してるねェ。と私を見ながら言ってきた。

根っからの貧乏性があるのだから、いきなりこんな豪邸来たら戸惑うに決まってるだろう。敢えて開き直るのだが。

 

 

「それで、お仕事の内容は何なんですか?」

「別に?何もないけど?」

「…はい?」

何もないとはどういうことなのか。わけがわからず首を傾げた。

 

ピサロはそんな凛燕も見ながら愉快そうに薄く笑い、頬杖をついて足を組む。

 

「保険だよ、ボクの助手っていう保険。だから別に何もしなくていいし、とりあえず最初だけはボクと行動してくれれば周りが勝手に認識してくれるさ」

じゃあこの人は本当に私を助けてくれただけってこと…?本当に…?

 

保険ってことは要するに先ほど言った、私が殺されないためにピサロさんの名前を借りるって事なんだろう。殺戮街の輩に絡まれても、ピサロさんと言うだけで手を出してこないという保険。

 

本当にこの人は何者なんだ…?

 

 

 

あの殺戮街という場所はきっと政府にも警察にも知られていない場所なのだろう。じゃなければ犯罪者たちが呑気にお酒を飲んだり遊んだりなんてしていないはずだろうし。

私はピサロさんの事を何も知らないし、殺戮街の事についても何も知らない。いや、きっと知らない方がいい事なのだろう。だから彼は私に何も教えないし、探させようともしない。空気がそのような感じだ、余計な詮索はするなっていう威圧がある。

さっき私が写真を見ていた時だってきっと…。

 

 

「先程の解釈ですが、私を助けてくれたと解釈します。私にはメリットはありますけど、ピサロさんにメリットがありません。むしろ、デメリットじゃないですか?」

 

そうはっきりと言う私にピサロさんは射殺すような瞳を細めて頷いた。

 

「メリットなんか無いヨ。これは単なるお遊び。キミは何も心配する必要はないさ、殺しはしないし、ちゃあんとお家に帰してあげるから…ねェ?」

とりあえず今日は泊まって行きなよォ~と有無を言わせない表情で笑った。

 

ピサロさんが言うには、夜はやはり危険だという。危険としか言わなくて、何が危険かは教えてはくれなかったけど…。きっと外にはうじゃうじゃ犯罪者たちが居るんだろうなと思えば、近くにコンビニがあったとしても出たくはなかった。

 

お言葉に甘えさせてもらい、一泊させてもらうことにした。夕飯はどうしようと考えていたら、いつから居たのか、メイドさんがご飯を持ってきてくれてご馳走していただいた。

ホント、私おもてなししかされてないのでは…?

その夕飯と言うのも、高級そうで如何にも三ツ星レストランとかで出てきそうな小さなお肉だとか透明なスープだとか綺麗にデコレーションされてるケーキだとか…!

ご馳走していただけるのはありがたいけど、これは少ないというか…もっとガッツリ食べたいというか…マナーとかもわからないし、ピサロさんは向かいの席で優雅にお上品に食べてるし、なんだろうこの無言のプレッシャーは。

 

一口も手につけてない私にピサロさんは首を傾げて、どうかしたァ?と尋ねてきたけど、もうちょっと大盛りにしてくれませんだとか、マナーがわかりませんだとか言えない…!

くだらない事で戦慄している私は、首を横にふるふると全力で振ってとりあえずいただくことにした。

こういうのは量じゃなくて味なんだ。味を楽しむものなんだよ…。

 

でもどうだろう。以前私はテレビで高級大トロなんて特集されていて、まんまとその大トロを食べに言ったわけだが、やはり私には高級という字すら合わないのか…。全然味がわからなかった。ただ脂っぽいだけで筋いっぱいあるし、美味しくないと思ってしまったのだ。このことから私は質より量なんだなと悟った。

 

 

「嫌いな物でもあった?なら変えさせるけどォ」

「いやいや…!そんなんじゃないんです…!」

 

とりあえず食べよう。と私はスプーンを持ち、慎重にスープを一口飲んだ。

 

 

 

「…っ!?」

 

なっ、なんだこれは!!!?

 

 

「お、美味しい…」

嘗てこんな美味しい料理食べたことがない…!!

 

私は口を抑えて、あまりの美味しさに涙が溢れそうになった。グルメマンガのような感想は求めてはいないだろうが、これはあまりにも美味しすぎるだろう。

 

「凛ちゃんはすっご~いオーバーリアクションが得意なんだねェ」

こんな美味しいものを毎日食べているピサロさんの舌はもう慣れてしまったのか、平然と食べている。この感動をピサロさんにも伝えたいほどなのに。

 

毎日自炊やコンビニ弁当、カップラーメン生活をしていた私にこれは刺激が強すぎる。高級なものには慣れたくはない。そうしたら生活とかが一変してコストが高いものを求めそうになるだろうし、これはもう一生に一度しか無い経験と大袈裟に捉えておいた方がいいのだろう。

 

次はメインではある牛肉のステーキを食べたが、もう死んでもいいと思った。なんでこんなに口の中で溶けちゃうの?とかなんでそんなにスパッて切れちゃうの?だとか料理に向かって問いかけそうになった。相当危ない人だ。

 

 

 

「そういえばピサロさん、なんで私の名前知ってるんですか…?」

 

確か名乗っていなかったはずだ。ピサロさんは名乗ってくれたけど、私は名乗っていなかった。我ながら失礼だなと反省する。

 

尋ねればピサロさんは蛇穴に聞いたァとナイフを指で弄りながら答えた。

あの野郎、べらべら喋りやがって。と一瞬思ったが、偽名なので問題ない。というか、蛇穴さんとピサロさん繋がってたのか。驚きだ。

確かに蛇穴さんは殺戮街の中でも異質で有名らしいし、ピサロさんもそれより上回る異質…濃い人ばかりで自分の存在が消えそうだ。

 

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