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「すみません、申し遅れました。私、凛燕といいます。この度は助けていただき…」

「ねェ、その敬語やめない?堅っ苦しくて嫌いなんだけどォ」

私の言葉を遮って、フォークで私に突きつける。

堅苦しいと言われても、ピサロさんはどう考えても年上であるし、敬意を払うのは当たり前…と思ったのだが、どうやら彼はフリーダムのようで敬語とかそういうのは気にしないタチのようだった。

敬語を外すように言われ、渋々と敬語を外すことにした。ついでにあだ名で呼んでネという無茶ぶりも要求された。あだ名なんて早々付けるものではないというのに。しかも年上にあだ名を付けるというのはかなり抵抗がある。

 

「わかったよ…じゃあ、ピサちゃんで」

「そーそー、気楽にしようねェ~あひゃひゃ」

あんたの威圧のせいで気楽にしたくても気楽にできないよ。

ピサちゃんは普通にしてると思ってるみたいだけど、こちらから言わせてもらえばオーラ半端ないし、無自覚なのかな…?威圧がすごいです。雑魚敵にピサちゃんが紛れてたら絶対こいつ強い奴だって瞬時にわかる程度に威圧がすごいです。

 

「へェ、いきなりフレンドリーになったねェ?凛ちゃんって演技派ァ?」

「演技っていうか冷静を装ってるだけだよ。慌てて余計なことまでしないようにさ」

私はとにかく困惑したり興奮したりすると周りが見えなくなる傾向にある。それは過去からの経験上でよく思い知らされた事。結果、私は冷静さが足りないのだと改善を図り、現在のようにある程度の事には取り乱さないようにしてはいる。

この短い間で様々な不可解な出来事があったが、何とか冷静を装うことが出来たと思う。内心では色々とツッコミたいところが盛りだくさんであったが。

 

「訳ありみたいだねェ~」

そう言いながらコーヒーを静かに飲むピサロを見て、ふと思い出した。

 

「あの、電話いいかな…?」

「どうして?」

別に通報だとか、疑っているだとかではない。単に用事。

私の家は動物がわんさか居る。学校に行っている間はペットホテルで預けている。その分、莫大な費用が掛かるわけだが…食事を朝と夜のみの動物は預けず、家に待機させているのだ。犬二匹、猫三匹、鳥二羽、蛇一匹、狐一匹、狸一匹。家は動物園状態である。

何故この状態になったのかと言えば、捨てて放置してあったりだとか、傷ついていたりだとか、理由は様々だ。購入したのではない。

傷ついているのに関しては、完治し次第、野生に帰すつもりでいる。こんな感じで、本当は家を開けるなど決してあってはならないのだが…そのためにいつもお世話になっているペットホテルへ連絡し、家に居る動物たちを預けられたら…と思ったのだ。普通ではそんなサービスは行っていないが、汚い言い方をすればもはや常連であるため、ある程度の事は引き受けてくれるのだ。

何にせよ、このままにするわけにはいかない。ペットホテルがダメだったら無理言って帰らせてもらおう。

ピサロに事情を話せば、なるほどと頷いてそれから、こっちに連れてきちゃえば?と言ってきた。

 

「いやいや、だって七匹と二羽居るんだよ?いくらピサちゃんの家が大きいからってそれは駄目だよ」

「なんでェ?別にいいけど?餌ならメイドに言っておけばやってくれるし、お金も掛からなくて済むでショ…というか今までお金どうしてたの?」

全部じゃないとはいえ、それだけの動物たちをペットホテルに預けるには莫大な金額を要する。それに私は一人暮らしだ。そんなお金は当然、懐から出てくるわけなんて無い。好きなものも買わず、必要最低限の生活で、バイトを毎日入れていた。そうすれば、ギリギリではあるが、何とか賄っていけたのだ。…今日バイト休んじゃったからどうしようか凄く悩みどころではあるけど…。

「バイトねェ…」

ピサロは何かを考えるように顎に手を添えて唸るように首を捻った。そして凛燕を見て徐ろにとんでもない事を言ってのけた。

 

「バイトやめちゃいなよォ」

「はい?」

何言ってんのこの人!

私がバイト辞めたら死ぬんだけど…!借金まみれになるんだけど!!

 

「ピサちゃんは私を借金地獄に落としたいの…?」

「ん~?あァ、それも面白そうだねェ!」

おい!!

 

冗談だよォ~とケラケラ笑うピサロに私はため息を吐いた。この人の冗談は冗談に聞こえないから怖い。

 

「だからねェ、バイト辞めたらって」

「なんでやめなきゃいけないの?主旨を言ってよ」

「あァ!そうだったァ!あひゃひゃ、ごっめぇ~ん」

何だこの謝り方殴りてぇ

殴ったら計り知れない返り討ちになりそうだからやめておくけど…。

 

「助手の仕事あげるヨ。肩書きじゃなくて、本当にお仕事あげる。そうしたらバイトしなくて済むでしょう?」

助手の仕事…これだけ聞けば、やりがいのありそうな仕事だと思うだろう。しかしだ、ここは殺戮街…犯罪者が住む街である。そんなところの、ましては得体のしれない仕事場での助手なんて…はいやりますだんて誰が思うだろうか。危ない仕事に決まっている。この人の事だ、人を殺したりする仕事なのだろう。そこのサポーターだと…?処理か、死体の処理か?

 

「もしかして仕事内容気にしてるゥ?あひゃひゃ、心配ないさ。簡単だヨ」

その言葉を果たして信じていいのだろうか…。不安だ。

ピサちゃんが言うには、私にも簡単に出来るお仕事だと言う。女の子にハードなお仕事なんてさせるわけないでしょう?なんて紳士的な事を言っているが、今させなくても後々させそうだから不安なのである。きっと、そのうちハードな仕事を押し付けるに決まっている。

 

「ハードな仕事はねェ、キミがやりたいのならやらせてあげる」

この街には依頼書というのがあるらしく、そのランクもあるらしい。

一番低くてE。一番上でSらしい。

そして依頼だけにランクは設けておらず、本人にも殺戮レベルというのがあり、一番低くて0。最高は5という。ちなみにピサロさんは最高のレベル5で、依頼もランクSをいつも受けているらしい。

一番上というのがどんな仕事か聞いてみた。

「う~ん…そうだねェ…大統領暗殺とか…?そんな依頼なかなか来ないけどねェ」

悪~い大統領さんじゃないとなかなか殺さないかもォ~とか平然とした表情で言っており、私は聞かなければよかったと心底思った。

殺戮街はそんな事までしているのか…恐ろしい。

普通は犯罪者同士の狩り合いだとか、裏社会の掃除。目立たないところで動いているらしい。なので、大統領暗殺といった派手な依頼は最高ランクだと言う。

 

「犯罪者同士で殺し合い…?」

「ボクたちはね、殺したいだけなんだ。とにかく何かを殺したい。人でもその精神でも、動物でも、殺したい…そんな異常者が集まった場所がこの殺戮街なんだよォ」

俗にいうサイコパスというわけだ。この人の目を見ればわかる。別に殺気立っているわけでもないのに鋭利な刃物のように鋭い視線、普通の人間とは根本的に違う何か。

私が凡人だからわかるのかもしれない、この人が何を考えてるかはわからないけど…雰囲気はわかる。禍々しいのだ。

「じゃあ、ピサちゃんは今誰かを殺したいって思ってるって事…?」

「さァ?でも、今キミが殺してって言うのなら殺してあげるケド?」

そう言って懐からナイフを取り出し、そのナイフの平を私の頬に宛てがった。

とりあえず、わかった。

この人達が命というものを微塵にも大切と思ってないってことが。

 

「とーりーあーえーずゥ、バイトやめよォ?バイトに行かれちゃうとねェ、監視しづらい状況下になって、キミ簡単に殺されちゃいそうだからさァ!」

バイトと死、どっちを選ぶ~?とナイフを下ろして、いつもの仮面をつけた笑いで私を見るピサちゃん。

ああ…、バイト先のおばさん。今までお世話になりました…。

 

思ったんだけどさ、私ピサちゃんに恐喝されてない…?お金とかじゃなくて、死を脅し理由にしてペースに乗せられてない…?

この人に本当に任せていいのだろうか…ピサちゃんの都合の良いように動いてるけどこのまま乗せられていいのか…?もし、狙われているって話が嘘だったら?…いや、でも本当だとしたら私は殺されちゃうわけだし…動くにしても動けない…。この人わかっててそうしてるな。

本当に恐ろしい…寝ている間とかに殺されそうな思いだ。

 

「それで、動物の件だけど…」

「住所教えてよ、とりあえず今日はキミの家にメイド行かせて世話させておくからさァ」

コーピーのカップをテーブルにおいて、頬杖をついて後ろに居るメイドに指を指すピサロ。

メイドは私に丁寧にお辞儀をして薄く微笑む。かなり美人だ。

 

この人に住所教えても大丈夫かな…と思いつつ、状況的にやむを得ないのでお言葉に甘えることにした。

メイドさんは荷物を抱えるとこちらに再度一礼して、屋敷を静かに出て行った。

凄く有能そうなメイドさんだ。こんな街に住んでいるくらいだから有能なのは当たり前か。

それからしてピサちゃんの屋敷のお風呂を拝借した。一言言えば露天風呂みたいな広さだった。本当に金を使っているなと感嘆したというよりも、貧乏人から言わせて貰えばものすごく勿体無いというのが個人的な感想だ。

貧困の差が激しい世の中だ。

 

ピサちゃんが途中、一緒に入ってあげようかァ?なんてスケベ発言をするものだから冷静に即お断りさせていただいた。あの人、表面上では結構下心持ってそうだけどあんまり女性に興味がなさそうだ。それは私だからじゃなく、元から女性に対しては関心はなさそう。悪戯としては色々な事をしてきそうだが、本気で意識しては行動はしていないと見た。

案の定、私が即様否定すると、ざぁんねぇん!と言って笑って遠ざかっていった。

ここでもし私がいいよなどと肯定したなら彼はもしかしたら断るかもしれない。

今まで入ったことのない広さのお風呂を拝借したところで、お風呂から出れば目の前には寝間着やバスタオルなどが用意されていた。

おそらくピサちゃんだろう。使用人が来た様子はなかったし、先ほどのセクハラ紛いな事を言ってやってきたピサちゃんがさり気なく挨拶ついでに持ってきてくれたのだろう…いや逆か。

ありがたく使わせてもらい、寝間着もお借りすることにした。

何だ、この素材は…?シルクか?

高級感溢れる手触りに着るのを戸惑う。しかし勿体無いからと遠慮すれば私は全裸のままピサちゃんの元へ行かなければならない。それは流石に無理だ。もし出来たならプライドとかどうこう以前に女を捨てている。捨てている場所はそうだな…溝辺りか。

 

戸惑いながらもその寝間着を着て、リビングへと向かった。

入れば、ピサロはソファーに座って新聞のようなものを読んでいて意外だなと思った。

彼の印象としてはいつもはしゃいでいて落ち着きのない感じが定着しつつあったのだが、静かに紙を眺めている。彼がまたわからなくなった。

 

「やァ、気持よかったかい?」

読むのを中断し、私に視線を向けて微笑むピサちゃん。

うん、思ったのだがやっぱりピサちゃんってなんか内心で言うのは辛いな!内心だけはやっぱりピサロさんって呼ぼう。彼は敬語とか堅苦しいのが嫌いだと言うけれど、私から言わせてもらえば、随分と年の離れたこんなお偉いさんみたいな威圧を出した人にあだ名呼びだなんておこがましいのにも程があると思っている。

よく居るのだ、例えれば後輩が先輩に向かってタメ口で話したり、先生に向かって生意気な口をきいたりする輩が。

他人は別にとは思うが、それを自らが行っているとなれば話は別だ。やっぱり慣れない。

 

「貸してくれてありがとう。広すぎて感動したよ」

「あひゃひゃ、正直だねェ。喜んでくれてよかったヨ」

それはそうと…と小さな紙を取り出して私に差し出した。

何かと首を傾げながらそれを受け取ると、何やら日にちと集合場所が書いてあった。

 

「これは…?」

「凛ちゃんのお仕事だよォ。指定された日にちにその場所に向かってくれる?これ渡してくれるだけでいいからさァ」

そういって差し出された白い封筒を受け取り、小さい紙を再度見た。

誰かに会えばいいのか…?

 

インサイド

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